10年愛してくれた君へ



「ただいまー」


玄関に入ると途端に待ってましたと言わんばかりにリビングのドアが勢いよく開き、お母さんが駆け寄ってきた。


「ちょうどよかったわ!あんたこれ、春人くんに届けてきてくれない?」


そう言って渡されたのは、紺で無地の大きめのパーカーだった。


「これ、春兄の?」


「多分この前うちに来てくれた時に忘れていったのよ。お母さん気づかなくて一緒に洗濯しちゃってたみたいで、見覚えなかったしこのサイズだから、お父さんのじゃないでしょ?」


確かにお父さんは背も低いし細身だ。最近暖かいから、パーカー着忘れても気づかなかったんだ。


「わかった、届けてくるよ」


お母さんから受け取ったパーカーをカバンにしまい、そのまま再び家を出た。



春兄の家はここから歩いて5分くらいのところにある。簡単に行き来できる距離だ。






見えてきた、春兄の一軒家。チャイムを押すと扉が開く。出てきたのは春兄だった。



「あれ?藍どした?」


「春兄、スーツなんだね」


春兄はスーツの上着を脱いだ状態で、ネクタイを緩めながら扉を開いたみたいで、普段あまり見ないスーツ姿に加え、ネクタイを緩める姿という何とも乙女心をくすぐるシチュエーションに少しキュンとした。


春兄は何でも様になる、自慢の幼なじみだ。



「あぁ、今日説明会だったんだ、会社の」