10年愛してくれた君へ

ゆっくりと春兄に視線を移す。


春兄の手をそっと取り、包み込むように強く握った。


「…目、覚ますよね?大丈夫だよね?」


すると、春兄ママは息苦しそうに声を漏らした。


「…危険な状態が続くって」


その言葉に握っていた自分の手の力がスーッと抜けていく気がした。


「助からない…の?」


「意識が戻れば大丈夫だけど、もしかしたら障害が残るかもって。だけど打ち所が悪かったから、最悪の場合も…覚悟しておいてって」


「そんなっ!!」


私の中で我慢していた何かがぷつっと切れて、構わず大泣きした。


嫌だ…嫌だ!!


居るのが当たり前だと思っていた春兄が、突然消えてしまうかもしれないというこの状況。


ふと頭をよぎったのは、いつの日かお母さんが話してくれた過去のこと。



思えばお母さんはずっと黙ったままだ。


「…お母さんっ」


するとお母さんは顔を歪め、泣きそうな顔で私と目を合わせる。


「…大丈夫よ…人がそう簡単に死んでたまるもんですか」


"死"…


かつてお母さんの幼馴染も、若くして事故で亡くなった。


今まさに、私と春兄も同じ状況に在る。


神様は残酷だ。


こんなに優しい人を、どうして酷い目にばかり遭わせるのだろう。


泣き続けている私に声を掛けたのは春兄ママ。