10年愛してくれた君へ



病院に着き、受け付けに駆け寄る。


涙が流れ、息が上がる私を不思議そうに見る院内の人たち。


「あ、あのっ…竹内春人の病室は」


そんな私とは対照的に、受け付けの女性は冷静だ。


告げられた病室へと走り出そうとしたが、いやいやここは病院だ、と自分を落ち着かせる。


ゆっくりと深呼吸して、静かに歩き出した。



だけど私の心は今にも泣き叫びそう。


春兄の病室にどんどん近く。


その度に、自分でも分かるくらい心拍数が上がっていった。



そして病室の目の前に立ち、扉に手を掛け、静かに開いた…





中に居たお母さんと春兄ママがこちらを振り向いた。


「藍…」


ここだけ異様な雰囲気に感じた私は、お母さんの声など耳に届かず、まるで無音状態。


真っ直ぐ目に入ったのは、頭に包帯を巻いて、顔にいくつも傷を負った、痛々しい春兄の姿。


目をつぶり、ベッドに横たわっている。



一歩、また一歩と春兄に近づいた。



「は…はる…にぃ?」


私の呼びかけに反応は無い。


いつもみたいに笑ってよ。


その大きな手で、また私の頭を撫でてよ。



「…飲酒運転、信号無視」


「えっ…」


春兄ママは静かに呟いた。

か細い声だが、しっかりと私の耳にその言葉が届く。


「春兄が?」


「いえ違うわ。交差点で春人の車にぶつかって来たらしいの。春人は右のサイドガラスに頭を強く打ちつけて、この状態よ」


そんな…ルール違反をした人のせいで、春兄はこんなことに?


「そのぶつけてきた相手は?」


「エアバッグで無傷だって。こんな事故を起こして精神状態は良くないらしいけど」


春兄がこんなに傷だらけなのに、事故を起こした本人は無傷って…