10年愛してくれた君へ



「じゃあね充希」


「おう」



いつもの十字路で充希と別れる。

今日はやけに静かだ…普段よりも人通りが少ない。そう思いながらトボトボと歩いていると、携帯が鳴った。



お母さんからの着信だった。



「もしもし?」


『藍っ!?』


今までに聞いたことのないような、切羽詰ったような声。


「お母さん?どうしたの?」


『…春人くんが』


何か嫌な予感がして、胸が騒ついた。


春兄?春兄がどうしたの?





『春人くんが…



事故に遭ったって』



えっ…




一瞬、何が起きているのか分からなかった。


全身の血液が、サッと引いていくような感覚に陥る。


脈が激しく打つ。




その後のお母さんの言葉が耳に入ってこない。


ようやく聞き取れた言葉は、春兄が搬送されたという病院名。



『とにかく今すぐ来てちょうだい!!!』


一方的に切られた電話。


足がすくみ、思うように動かない。



行かなきゃ…春兄のところに行かなきゃ。



やっとの思いで駅前まで戻り、ロータリーに止まっているタクシーに乗り込んだ。


行き先を告げ、タクシーが動き出す。


移り変わる景色がスローモーションに見えた。