「じゃあね充希」
「おう」
いつもの十字路で充希と別れる。
今日はやけに静かだ…普段よりも人通りが少ない。そう思いながらトボトボと歩いていると、携帯が鳴った。
お母さんからの着信だった。
「もしもし?」
『藍っ!?』
今までに聞いたことのないような、切羽詰ったような声。
「お母さん?どうしたの?」
『…春人くんが』
何か嫌な予感がして、胸が騒ついた。
春兄?春兄がどうしたの?
『春人くんが…
事故に遭ったって』
えっ…
一瞬、何が起きているのか分からなかった。
全身の血液が、サッと引いていくような感覚に陥る。
脈が激しく打つ。
その後のお母さんの言葉が耳に入ってこない。
ようやく聞き取れた言葉は、春兄が搬送されたという病院名。
『とにかく今すぐ来てちょうだい!!!』
一方的に切られた電話。
足がすくみ、思うように動かない。
行かなきゃ…春兄のところに行かなきゃ。
やっとの思いで駅前まで戻り、ロータリーに止まっているタクシーに乗り込んだ。
行き先を告げ、タクシーが動き出す。
移り変わる景色がスローモーションに見えた。



