10年愛してくれた君へ

歌い終えた河西くんは、大きく肩を揺らしていた。


「かなり激しめだったね」


ぐったり座り込む河西くんに私は声を掛ける。


「このバンド、こんなんばっかだぜ?」


「河西くんと音楽の話したことなかったから、こういうの好きなんだって意外だった」


「確かに。俺も言ったことなかったもんな」


付き合っていても、お互い知らないことはたくさんあるんだな。きっと知らないことの方が多いのだろう。


「次私ね〜」


充希の選曲は洋楽のパーティソング。


CMでよく流れている曲で、そのアーティストには詳しくないが、サビは知っていた。


充希は意外と英語の発音が上手いのだ。



その後もローテーションで曲を入れたり、デュエットしたり、一人が選曲して二人は目をつぶってイントロクイズという謎の遊びをしたり。


最近の嫌なことを全て忘れられるくらい、楽しい時間が流れた。


気付けばもう20時。


「そろそろ帰るか」


充希の一声で退室した。


カラオケ店を出たところで河西くんと別れ、帰り道が途中まで同じ充希と一緒に電車に乗る。



「いや〜久々のカラオケだったわ」


「私も。充希の洋楽の上手さに河西くんびっくりしてたね」


「私はあいつのヘドバンが頭に残っているわ」


確かにあれは激しかった。頭を振る河西くんの姿を思い出すと、脳血管破裂しそうで急に心配になってきた。


あんなことしながら歌えば、そりゃ体力も消耗するわ。


「…てか、別れたんだね、河西と」


報告した時は特にリアクションを見せなかったから、改めて聞いてきたことに少しだけ驚いた。


「…うん」


「そっか。自分の本当の気持ちに気づいたりしちゃった?」


私は充希に春兄のことは話していない。


なのに、まるで私の心を見透かしているかのような、この発言。


目を丸くして充希を見ていると、ふっと笑って前を向いた。


「ま、それが運命だったってことよ。自分に正直に生きなさい。言いたいこと、やりたいこと、後回しにするんじゃなくて」


「そう、だね」


同い年のはずなのに、妙に大人っぽいことを言ってくる。だけど何故か説得力もある充希の言葉。


その言葉を胸に、帰ったら春兄に連絡をしようと決心した。