翌日、南さんがいなくなり、クラスの男子の活気が落ちている中、何故か同じようにテンションの低かった河西くんが、放課後声を掛けてきた。


「あのさ、ちょっとこのあといい?」


「うん」


河西くんの後をついて行き、たどり着いたのは人気の少ない校舎裏。


いつもと様子の違う彼を不思議に思いながら、口を開くのを待った。



「…単刀直入に言うとさ、今鵜崎の心の中に俺はいる?」


「どういうこと?」


何を言い出すかと思えば。


単刀直入と言うけれど、全然そのような感じはしない。むしろ私にとっては遠回しの言い方に聞こえる。



「…ぶっちゃけ、春兄さんのことが好きだろ?」


「えっ!?」


思いもよらない言葉にただただ驚く。


それと同時に、心拍数も上がった。


「ちょくちょく感じてたんだ。鵜崎の気持ちの変化に」


そう言うと、くるりと半回転し、私に背中を向ける状態になった。


「元々鵜崎の中で春兄さんの存在がデカかったのは知ってたけどさ。最近また違った意味で、どんどん存在がデカくなっていってるだろ?」


河西くんは、私の気持ちの変化に気づいていた?


「…あの、河西くん」


「いいんだ。どうせ最初から勝てる勝負じゃなかったんだし」


夕日が差し、河西くんがシルエットとなって私の目に映る。


同時に影をも映し出し、河西くんの黒いフォルムが二つ現れた。


河西くんは振り向いた。だけど、シルエットで表情まではよく見えない。



「…別れよう、鵜崎」


どんな気持ちで告げているのだろう。


河西くんは今、どんな顔をしているのだろう。


「…今まで、ありがとう。河西くん」


絞り出すように声を発した。


いつも明るくて、懐に入るのが上手くて、人の変化に敏感で、友達思いの河西くん。


初めての彼氏が河西くんで本当に良かった。



「また明日、学校でな!」


私に背を向け歩き出す。


その後ろ姿に再び『ありがとう』と呟いた。