「…つまらなくなったからよ」
「つまらない?」
顔色一つ変えず、淡々と話す南さん。
それはまるで、感情のないロボットのようだった。
「最初は彼の優しさを嬉しく思っていたし、大好きな部分だったわ。でも、だんだんと物足りなくなってきたの。私は刺激が欲しかったのに、春人は優しすぎた。優しすぎてつまらないのよ。だからフった」
頭の中が真っ白になる。私の知らないところで、私の知らないほど深い傷を負っていたんだ。
春兄の優しさを"つまらない"だなんて…
春兄はその言葉にどれだけ傷ついたのだろう。
怖くて、悲しくて、想像もできない。
一途な春兄を、そんなに酷く言うなんて。
怒りと悔しさで視界が滲んできた。
ダメだ、こんなところで泣いたらダメだ。
「…結局、優しいだけじゃダメだってこと。知ってる?優しさは他人を喜ばせるけれど、本人にとっては損になることもあるのよ」
優しさが本人の損。
悔しいけれど、少し分かる気がしてしまう。
私自身、春兄は他人を優先しすぎて自分が我慢をしていないかとても心配になることがある。
だから、南さんのその言葉は、嫌でも納得してしまった。
「でも…3年付き合ってたんですよね?春兄に聞きました。元カノと3年続いてたって。春兄の優しさに3年も我慢していたってことですか?」
「元々刺激的な恋愛をしたかったの。だから春人の性格には早々から嫌気がさしていたわ」
「っ!!だったらどうして3年も」
「…ステータスが良かったからね。顔も良し、体格も良し、背も高くて、スポーツも勉強もできる。そんなハイステータスな男をすぐに手放すのは惜しいと思ったのよ」
この人は、何を言っているの?
春兄のことを、何だと思っているの?
ステータスでしか見ていなかったってこと?
何よそれ…
我慢していた涙がついに溢れた。
真っ白だった頭に血が上っていくのが分かった。
「酷い!そんなの酷すぎます!!!春兄を利用していたってことですよね!?あんなに良い人を…おかしいです、おかしいですよ!!!」
お店の中だと言うことも忘れ、目の前の南さんに怒鳴りつけた。
しかし、南さんは反抗することなく、冷静に静かに呟いた。



