10年愛してくれた君へ


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「えー、短い間でしたが、みんなと過ごしたこの1週間は、私にとってかけがいのないものになりました。今までお世話になりました」


今日は、南さんの教育実習最終日。


帰りのホームルームでの挨拶、思っていたよりも深い想い出になったのか、涙ぐむクラスメイトたち。


あれから春兄への連絡はできていない。


春兄からの連絡もない。


私があのメッセージに返事をしていないから、それは当然のことなのだけれど。


「これ、私からのほんのちょっとした気持ちです。前から配っていくわね」


南さんは袋から何かを一つずつ出し、前から順にそれを配っていき、生徒たちと軽く言葉を交わす。


「…はい、鵜崎さん。今までありがとう」


「こちらこそ…あの、1週間お疲れ様でした」


南さんから受け取ったものを見ると、それは手作りクッキーだった。


可愛くラッピングがされていて、クッキーの形もとても綺麗だ。焦げ目など一切ない。


手際よく作っている様子が容易に想像できる。


今日で終わりか…たった1週間だったけれど、私にはとても長く感じた。



ホームルームを終え、いつものように河西くんと帰る。


「まさかクッキーとはな〜。バレンタイン以外にこういうの貰えるとは思わなかったわ」


クッキーを上に掲げる河西くん。


「私お菓子とか作れないから、羨ましいよ」


綺麗で英語も出来て、お菓子を作れるなんて、非の打ち所がない。


そんな人が春兄と特別な関係だったなんて。ネガティブな思考がどんどん大きくなっていく。


「…あ!俺ちょっと用事思い出したわ!ごめん鵜崎、先帰ってて」


「え?」


私が顔を向けると、既に逆方向に走り出していた。あまりにも急で、しばらくその場に立ち尽くす。


河西くんが用事忘れるのって珍しいな。


そう思いながら、一人家路につく。



地元の駅に到着し、本屋に寄って今持っているものとは別の参考書を探す。数多く並んでいる中から一冊手に取り、パラパラとめくってみるが、既に有しているものと内容は特に変わらない。


あれでも結構難しいけれど、せっかく買ったんだし使い続けるしかないか…


肩を落として参考書を元の場所に戻す。


お店を出て、そこからまた歩いている時だった。


「鵜崎さん?」


声のする方を振り向くと、南さんの姿。