10年愛してくれた君へ


***


「藍、ここはさっき教えた公式使うんだよ。その応用だから少し難しいだろうけど、公式覚えれば問題ないって」


只今、私の部屋で春兄に家庭教師をしてもらっている。


この前は私が居眠りしてしまっていて、結局春兄には帰ってもらったから申し訳なく、お詫びに今日は駅前の美味しいケーキを買って来た。


『この分野終わったら一緒に食べような』って言ってくれたから、何としてでも終わらせたい!


「あ〜難しいなぁ。でも春兄がいなかったらもっと解らなかったよ」


「藍はやればできるって」


優しく笑う春兄。


この笑顔、昔からとても落ち着くのだけれど、最近は穏やかな気持ちと一緒にドキドキした気持ちも芽生えて来た。


まだあの夢が頭から離れない…



そして春兄を見ていると、嫌でもチラつくのが南さんの顔。


春兄と南さんの関係について触れるのは厳禁に気がして、気になっても聞くことはできない。


もし聞いたら、また怒られそうだ。



春兄の元カノが私の学校に、しかも私のクラスに教育実習に来るなんて、偶然にも程があるけれど。


言ったら春兄、びっくりするんだろうなぁ。



そんなことを思いながら春兄をボーッと見つめていると、目が合った。


「こら、見るのは俺じゃなくてこっちだろ?」


そう言って参考書を指でとんとん叩く。


「は〜い」


再び問題に取り掛かった。


「勉強しているときは余計なこと考えるなよ?」


あれ、何だかバレている?


「春兄は私の頭の中なんて丸見えだもんね」


「…藍はすぐ顔に出るからな。俺じゃなくても分かると思うよ」


どうしてだろう。


"春兄だけに分かって欲しい"なんて思ってしまった。


おかしいな、何なんだ、この気持ちは。