10年愛してくれた君へ


南さんの授業が終わり、私が一人教室を出ようとしたところを南さんに呼び止められた。


「鵜崎さん」


「…はい」


振り返ると、南さんの手には私が出した自己紹介カード。


何か変なこと書いていたかな?


いや、そんなはずはない。



すると南さんは、それを見ながら口を開いた。



「鵜崎さんは、篠木市に住んでいるのね」


自己紹介カードに今住んでいる市町村を記入するところがあり、そこを見ているのだろう。


でも、それが何か?


「…はい、そうですけど」


「そう…」


南さんは、目線をカードから私の顔に移し、じっと見つめる。


その目力に圧倒され、私は動かないでいた。


何だか品定めをされているような感じだ。



しかし、それも一瞬のことで、すぐにふんわりと微笑んだ。


「ごめんなさいね、急に呼び止めて」


それだけ言って私の横を通り過ぎて行く。


その背中を不思議に思いながら見つめた。



一体何だったんだ、今のは…



-----…



「…鵜崎藍。間違いないわ、きっとあの子ね」


南さんが、そんなことを言っているなんて、思いもしなかった。