南さんの授業が終わり、私が一人教室を出ようとしたところを南さんに呼び止められた。
「鵜崎さん」
「…はい」
振り返ると、南さんの手には私が出した自己紹介カード。
何か変なこと書いていたかな?
いや、そんなはずはない。
すると南さんは、それを見ながら口を開いた。
「鵜崎さんは、篠木市に住んでいるのね」
自己紹介カードに今住んでいる市町村を記入するところがあり、そこを見ているのだろう。
でも、それが何か?
「…はい、そうですけど」
「そう…」
南さんは、目線をカードから私の顔に移し、じっと見つめる。
その目力に圧倒され、私は動かないでいた。
何だか品定めをされているような感じだ。
しかし、それも一瞬のことで、すぐにふんわりと微笑んだ。
「ごめんなさいね、急に呼び止めて」
それだけ言って私の横を通り過ぎて行く。
その背中を不思議に思いながら見つめた。
一体何だったんだ、今のは…
-----…
「…鵜崎藍。間違いないわ、きっとあの子ね」
南さんが、そんなことを言っているなんて、思いもしなかった。



