教室がざわついている。特に男子だ。


それを冷たい目で見ている女子もちらほら。


「女の教育実習生来るからって、ソワソワしすぎな」


その様子を見ながら冷静に呟く河西くん。


『あんたには藍がいるもんね』と、冷やかす充希を私は恥ずかしくなり後ろから軽く叩いた。



「よーしお前ら席につけー」


教室に入って来た黒山の顔は、いつもより若干緩んでいる気がするのは気のせいなのだろうか。


「あいつもデレてるよ、藍」


「絶対そうだね、充希」



すると黒山は一度咳払いをし、ふたたび口を開いた。


「えー、もうお前らの耳には入っていると思うが….今日からうちのクラスに1週間、教育実習生が来る。じゃあ、こっちへ」


クラスの視線がドアの方へと向けられる。


姿を現した"その人"に、息がつまりそうになった…


ゆるく巻かれたまだらのない綺麗な茶色の髪を後ろで結び、グレーのスーツを身につけている。

『芸能人です』と言われれば、誰もが納得するであろうその容姿。


あれって….春兄の元カノの…



このクラスで違った感情を抱いているのは恐らく私だけだろう。


教壇の前に立つ"その人"にテンションが上がっている男子や、『綺麗じゃん』と、見惚れている女子。


様々な反応が飛び交う中、ただ一人、私だけ違う空間にいるようだ。


「じゃあ、自己紹介を」


「はい。みなさんこんにちは!高橋南と言います。大学では英語を専攻していて、みんなに教えるのも英語になると思います。1週間という短い時間ですが、たくさん思い出を作れたらなと思います。よろしくね」


黒板に名前を書き、軽く自己紹介をした後満面の笑みを浮かべる。


男子は『南ちゃ〜ん!!』とか、まるでアイドルのコンサートのように騒ぎ立てた。


"ミナミ"…



やっぱりそうだ、この容姿、この名前。


春兄の元カノの、ミナミさんだ。