10年愛してくれた君へ

『うんっ!ありがとう春兄!じゃあ春兄はこれ被って』


お返しに渡したつもりだったのかな、麦わら帽子を春兄へ。


貰ったものを他の人に渡すなんて、考えられないけれど。



『こら藍、春兄くんは男の子なのよ?』


『いいんだよおばさん。俺がこれ被ったら、面白いし』


嫌な顔一つせずそれを被る。


当時小学4年生だった春兄は、絶対恥ずかしかったはずなのに…


いつも私を優先するんだ。


小さいときからそうだったんだ。







「…春兄らしいね」


当時の話を聞いて、心が温かくなり、同時に優しい気持ちになる。


何年も春兄の優しさに触れて来たんだ。



「あれ?この私、怒ってるの?」


次に目をつけたのは、ふくれっ面の私とそれをなだめているのか、私の顔を覗き込んでいる春兄の写真。


こんなちょっとした瞬間のものまで写真に収めているなんて。



「この時、春人くんがうちに遊びに来ていてね?お母さんが間違えて、あんたのアイスクリーム出しちゃったのよ。藍が気付く前に春人くん全部食べちゃって、大激怒。悪いのはお母さんなのに、春人くんったらずーっと謝っていたわ」


決して人のせいにはしない春兄。


そんな春兄の人柄が現れた瞬間なんだね。


頬を緩ませ、写真に写る春兄を指で撫でる。