10年愛してくれた君へ

お母さんが指差した写真。


そこに写っているのは、青いキャップを被った私と、何故かリボンのついた麦わら帽子を被った春兄。


明らかに私たちが被るべきものは逆だ。


「何で春兄がこんな女の子みたいなの被ってるの?」


「あら、覚えてないの?」


「全く…」


「これはね?----…」








それは、私が5歳、春兄が9歳のとき。


誕生日を迎えた私を祝いに、春兄とご家族がうちにやって来た。


その時春兄は、この写真の中で私が被っている青いキャップを身につけて来ていた。


私は夏に日焼けをしやすく、毎年真っ黒になっていたみたいで、春兄ママが誕生日プレゼントにリボンのついた、可愛らしい麦わら帽子をくれたんだ。


だけど、当時の私は女の子っぽい物があまり好きじゃなくて、どちらかというと男の子と遊ぶことが多かったし、お人形よりも戦隊モノのフィギュア、おままごとよりもヒーローごっこが好きだった。


そんな私は春兄ママがくれた麦わら帽子が気に入らず、大泣きしたんだとか…


失礼な話だよね、全く。



『藍、ありがとうは?』


『やーーだーーっ!春兄の青いのがいい!』


お母さんのことも困らせ、せっかくの誕生日会なのに、主役の私は泣いてばっかり。


『ほら、これ被って写真撮るのよ』


無理やりそれを被せようとしてくるお母さんから逃げていた私に春兄は言ったんだ。


『藍、これ被りな』


自分が被っていた青いキャップを私に差し出す。

涙が少しずつ止まった。


『いいの…?』


『うん、だって藍はこっちがいいんだろ?』