少女はフードを深く被り、踵を返し走り出す。

陽気な旋律を奏でる楽隊の横を、その軽快なリズムをぐちゃぐちゃに踏み砕いて通り過ぎる。

ばさりとフードが外れる。

白の長い髪が零れる。

風を孕んで彼女の首を引く。

強引に空を仰がさせられた少女は、青い硝子の瞳にただ愕然を浮かべて、動揺に蒼白くなった唇を震わせる。

「……なに、何……どういうことなの……!?」

洋燈の光を映して色とりどりに煌めいていたその白銀糸は、メインストリートから遠ざかるにつれ彩を喪っていく。

それはまるで、夢の終わりを告げているようで。

彼女の耳に、鳴るはずのない鐘の音が聞こえてきた。……ああそうだ、これは、夜の魔法が解ける音だ。

お伽噺のお姫様は王子様と結ばれたけれど。彼女と王子様を再び繋いだあの片方だけの靴のような、そんな都合の良い落とし物など無い。夢の残り粕なんて、本当は存在するはずないのだから。

「……どうして」

少女の耳の奥で、ぎちりと嫌な音がする。身体がばらばらと崩れていきそうになる。噛み合わない歯車が無理矢理に回っていたことを、なぜ不思議に思わなかったのだろう。

本来の歯車がどれなのか、何処にいってしまったのかもわからないのに、今の自分が『違う』という事だけが確実に解ってしまって。

「──」

助けを求めようと開いた口からは、微かに吐息が漏れただけ。もう彼の名前を呼んでいいのかもわからなかった。

えも言われぬ気持ち悪さが彼女の胸を蝕んで、身体中を締め付けていった。