でも、斬られても駄目だったから。次は何をされるんだろう?そう考えたら怖くなって、どうしたらいいのかわからなくて、誰もいないかなって思ってここに走ってきたの、と少女は震えながら囁いた。

「私がいつも思ったタイミングでその『きせき』の力を使えたら良いだけなの。でも、そんな力今までに使ったこともないし、使い方なんて分かんない……っ!
『きせき』?『せいじょ』?そんなの知らない!私はただの何でもない女の子なのに!
それなのに急にお前の力で人間を戦争に勝たせろって言われても……っ、わかんないよぉ……!」

泣き叫びながら叩きつけられる少女の訴えに、少年は何も言えずに立ち尽くした。彼女はこんな壮絶な毎日を送りながら、あんなにも飄々とした顔をしていたのだ。

いや、笑う余裕なんてなかったんだ。


少年はおそるおそる手を伸ばした。少女の形の良い小さな頭に手を載せると、左右にぎこちなく手を動かす。

目をぱちくりとさせていた少女が頭を撫でられているということを理解して吹き出す。恥ずかしくなった少年はぱっと手を離した。

「こ、こうしたら少しは落ち着くだろ……」

目を逸らす少年に、少女が触れられた辺りの髪を撫でながら微笑む。

「ありがと、きみは優しいね。もっと早く仲良くなればよかったなぁ」

(……なんだこれ)

「きみは王子様だけど……

レイ、って呼んでもいい?」

(…………なんだ、これ……)

こちらを見上げて細まる瞳から目が離せなくなって、柔らかそうな頬が初めて桃色に染まるのを見て、ただ純粋に可愛いな、と思った少年は。

顔が熱くなるのを自覚した。