蒼穹に輝く吸い込まれそうな空色の瞳の、驚くほど綺麗な顔立ちの少女が王城に召されたのは、少年が生まれてから5年と丁度8ヶ月を数えた時だった。酷く正確に覚えているし、きっとこれからも忘れることはできないだろう。



少女が召される更に1週間前。王城の最高神官が慌てふためいて国王への謁見を望んだ。

神官曰く、「神託がなされた。森人と人間の争いを諌めることができるのは、唯一、神が遣わされた『奇跡の聖女』である」と──「『奇跡の聖女』は、その『力』で奇跡を起こすのだ」と。

更に曰く、「聖女は、歳は5つ、藍玉のような美しい蒼の瞳、陽に透け輝く銀糸、そして国一番の人形師すら作ることのできない程の美貌を湛えている」と。

それを聞いた国王は歓喜した。

人間は、この長く続く戦いに終焉を告げる奇跡の力を手に入れたのだ!森人を滅ぼす力を!

彼は彼女が聖女ということは伏せて触れを出した。それを見た人々の情報で、元々城下でも噂されていたほどの目立つ容姿の少女はすぐに見つかった。城に召喚されたのは城下町の花屋の一人娘だった。

少女の名は■■■■■。

国王は『奇跡の聖女』を特別待遇で王城に受け入れると決定した。王位継承者以上国王以下、あるいは国王と同等の地位を与えると。

そして、人間が奇跡の力を独占するために森人には決して知られてはならない、人の目に触れさせてはいけない、そのために争いが収まるまで城の中で暮らすように、と彼女に宣告した。つまりは──軟禁状態。

その日、何の身分も持たないただの町娘が、自分以外の誰のものでもなかった自由な人生と引き換えに、役人、そして王子をも凌ぐ絶対的な地位を手に入れた。