「……いや、ああは言ったけど正直どこで止めるべきか考えるのが面倒臭かったから、助かった」

「ふふ、はは、あははは、面倒臭かったって、」

フェリチタは下手をすれば彼が死ぬのではないかとやきもきしていたのに、そんな事を考えていたのか。

自分のあまりの空回りさに笑えてきた。我慢出来ずにフェリチタの目から涙が零れた。傷口に染みて痛い。

「ごめ、ごめんなさい……っ」

「違う、そうじゃない!」

フェリチタの目線にしゃがんだレイオウルがあたふたと懐を探るが今ハンカチなど持っているはずがない。諦めたように肩を落として彼女の目元を袖口で拭う。

「あー、違うんだ。……本当は、凄く、嬉しかった。皆僕を強いと思ってるから、こんな状態になっても誰も手を出そうとしない。でもフェリチタは後先考えずに、僕を助けてくれた」

がしがし、と頭を掻いて照れたようにそっぽを向いた。

「ごめん。僕、素直にお礼を言うのが得意じゃないみたいで。ひねくれた事を言ってしまう、みたいだ……」

それはさっき人を脅していたのと本当に同一人物なのだろうかと疑うほど幼い動作で、フェリチタはふふっと顔を緩めた。

「そういうところも……」

(……も?)

自分は、何を続けようとしたんだろう。

考えが纏まる前に、ぐらりと視界が傾いでレイオウルの肩に額をぶつけた。

「ふぇ、フェリチタ?」

呼びかけられても体に力が入らない。

「おい、って……思ったより深いな、この傷……」

遠慮がちに顎に手を添えたレイオウルが眉を潜める。どうやら再び怒りが再燃しているようだが──

「フェリチタ!おい!しっかりしろ!」

(何か、凄く眠いなあ……)

優しく揺すられるのを感じながら、フェリチタは眠気に抗うことなくゆっくりと目を閉じた。