空を舞ったのは、マルクスの持っていた剣の方だった。
へし折れて殆ど柄だけになった剣を何が起こったのかわからない様子でマルクスが見つめている。
「別に、本気を出せば刃が潰れていようがいまいが、大きな問題じゃないし、」
フェリチタの前に庇うように立つ、大きな背中。その肩が、よく見なければ気づかないほどであったが微かに震えているのは気のせいだろうか。
「そんな量産品の業物でもない剣、折るのはそんなに技術が要る事じゃない」
近づくレイオウルにマルクスが後ずさった。どれほどか下がったあと、無様に尻餅をつく。
レイオウルが持っているのはただの模擬戦用の剣のはずなのに。
「どうやら決闘じゃなくて死闘を望んでいるみたいだったから、お前の気が済むまで付き合ってあげようと思ったのに。
なんだ、そんなに生き急いでるなら……早くその首でもへし折ってあげれば良かったかな?」
色のない眼をしてマルクスを見下ろす彼の迫力は、本当に人を殺してしまうのではないかとそう思えてしまうほどで。
「お前は僕をいちばん怒らせる事をした。ただで済むと思うなよ」
自分に向けられたものでもないのに、フェリチタは彼の殺意に思わず身震いした。
「連れていけ」
彼のひとこえで控えていた傭兵が何人も場内になだれ込んできた。項垂れたマルクスを無理やり立たせ引き摺っていく。
その様子を依然座ったままで見つめながら、フェリチタがぽそりと呟いた。
「……ごめんなさい。要らないことしちゃった。そうだよね、殿下はとっても強いんだよね。それなのに、何もできないくせに手を出して……」


