ぱっと開ける視界。眩い太陽がフェリチタの姿を照らし出した。
彼女の目に、呆然とこちらを見つめるレイオウルが映る。背中側しか見えないが、向かいに立つ如何にも貴族然とした風貌をしている青年がマルクスだろう。
レイオウルがこちらに目を奪われている間に、マルクスが再び剣を振りかぶった。
その様子が酷くゆっくり見えて、フェリチタはぐっと強く足を踏み切った。体感ではその動作さえ鈍い。
──いいよ。もうしょうがないから、乗ってあげる。
「うわあああああああーっ!」
これで満足でしょ、私。
突然背後からした声と足音に驚いたように振り返るマルクス。その前にフェリチタが肩からぶつかった。
さすがに倒すことは出来なかったが、よろめいた青年の鼻先に素早く引き抜いたサーベルの切っ先をぴたりと添えた。
マルクスは何が起こったのかわからないといった様子で目を白黒させる。呂律の回っていない口で「なっ、お前……俺が誰だかわかってんだろうな!?」やら何やら喚いていたが、フェリチタの鋭い目を見てひっと息を詰めた。
「よく存じ上げております、シャノット伯爵、いえ……今は子爵でしたっけ?この度は災難でございましたね」
挑発的な物言いをしたフェリチタに文句を言おうと唇を震わせ、そこで彼女の頭に獣耳があるのに気がつく。その途端目付きが変わった。
「お前がフェリチタとかいう森人の捕虜だな!お前の、お前のせいで……!」
ぎらりとマルクスの目が昏い色に光った。剣が自分に突き付けられているのを忘れたように大きく剣を振りかぶった。
(正気!?)
剣を向けはしたがフェリチタに相手を傷つけることはできない。激昂して剣を振り回すマルクスの身体は無防備で斬ろうと思えば幾らでもできたが、フェリチタは歯噛みしてマルクスの剣を受け止めた。
力任せに叩きつけられ、ぐっと押し込まれた刃先に、手元にピシッと嫌な感触が響いてくる。
目を大きく見開くフェリチタの目前で、サーベルがばきん、と割れた。
勢いそのままに吹っ飛ぶ半身。それを目で追うよりも早く、マルクスの剣先がフェリチタの頬を滑った。
「──うッ」
必死で顔を逸らしたが、間に合わなかったらしい。体勢を崩して尻餅をついた。一瞬何も感じなかったが、切り口が急激にかっと熱くなり、生暖かい物が頬を濡らした。
「この、小娘が!」
(はは、自業自得って、こういうことを言うんだよね)
自分を嘲笑して唇の端を釣り上げながら、せめて目を背けるまいと、再び振りかぶられる剣をしかと瞳に映して──


