じゃあ、この試合は──?


「おいッ、あれ、模擬戦用の剣じゃねぇぞ!」

誰かが発した声にフェリチタは素早く視線を向ける。腕を庇うレイオウルの指の間から、ぱたっ、とほんの少し、地に赤が落ちた。それを見て鋭く息を呑む。

「つーか、今先に当てたの殿下だったろ!審判見てなかったのかよ!」

次々上がる声に、しかし審判は終わりの合図を発さない。


じゃあ、この試合は、どうやったら終わる──?


「~~~~ッ」

唐突に走り出したフェリチタを、ドルステとルウリエの酷く慌てた声が追いかけてくる。

「フェリチタ様!!」

「どこに……どうされるおつもりですか!!」

振り返らない。勢いよく階段に飛び込む。一段じゃ遅い、と思った彼女は二段飛ばしで駆け下りていく。サーベルを佩いていることを指先で確かめて、その指を、今度は胸に当てて──フェリチタは吐き捨てるように呟いた。

「ああ、もう、うるさいっ!」

それはドルステにもルウリエにも、その他の誰に向けたものでもなく。

「お願いだから、もう……っ、黙ってよ……!」

激しく脈打つ自分の心臓に向けたもの。

あの美しい金髪を見ると、あの琥珀色の瞳に見つめられると、軽やかに震える。

あの人が傷ついているのを見ると、あの人を喪うかもしれないと思うと──痛いほど暴れて、苦しくなって、視界が霞んで、息もできない。

私の心が、私の身体を、勝手に動かすの。