──『怖ければ僕の手を握ればいい。辛ければ僕と全部分け合えばいい。悲しければいつでも僕の胸で泣けばいい。無理に強い自分を装わなくていいんだ』

レイオウルの言葉を思い出し、しかしフェリチタは聴こえぬ声で彼に問う。

本当に?きみはずっと、私のそばに居てくれるの?

答えるはずの無い彼の代わりにフェリチタは自分に告げる。

否。と。

この関係は遅かれ早かれはあれど、必ず終わりが来るのだから。

長い逡巡の後、結局フェリチタは何も言わずによろりと立ち上がった。

「おい──」

体を支えようと差し出されたレイオウルの手を強く払う。

その手は驚くほど呆気なく弾かれて。善意以外の何でもなく自分に優しく差し出されたのだろう、そう考えると視界が滲んだ。

「フェリチタ。お前、僕に話してない事が無いか」

嫌な態度を取った自分に尋ねる声は酷く柔らかくて、彼女の心を震わせる。

「別に、何も」

でも、それだけ言って踵を返した。もう一緒に居る気にはなれなかった。居られなかった。

サーベルを拾い上げて鞘に戻す。かちん、と響く音に、フェリチタは視線を落とした。

(剣はいつも同じところに帰れて、居場所が決まってて、羨ましいな)

もしかしたら、自分はそろそろ帰されるのかもしれない。

何れにせよ帰らなければならないし、家に戻れるのは嬉しい事のはずなのに。できることならここに居たいと思ってしまうのは──

ままならない感情が溢れてうっかり零れないように、強く強く、強く……唇を噛んだ。