ぱっ、と。微かに飛び散る赤がフェリチタの青い瞳に広がって混ざる。

僅かな、しかし確かな、肉を斬った感触が手に残る。それはいつかの、あの感触と同じで、想起されるのは、すっかり脳裏に沁み着いてしまった、こちらを無機質な硝子のような瞳で見つめ返す、赤に染まった鳥の恨めしげな顔──


そう……彼らの生命を奪ったのは、私。

『礼拝』という名の儀式のために、戦士たちに捧げられた贄。『聖女』が殺し、聖女の加護の付いた肉だとそれを皆に振る舞うのが毎日の決まりだった。

血を見るのは平気だ。でも、自分が止めを刺した感触を思い出す度、吐きそうになる。私は、ただのなんでもない女の子なのに。無抵抗な生き物の命を奪えるほど、崇高な存在じゃない。

(……思い出したくなかったのに)

「良かった。やけにお前が下手に剣の扱いが巧くて僕の剣を防ぐから、いつまでも終わらないかと──おい、どうした?」

彼女の手からサーベルがするりと零れて、地に落ちて微かな砂煙を上げる。

「やだ、」

両手で顔を覆ったフェリチタが蹲った。ごしごしごし、と手のひらで目を擦る。

「おい、フェリチタ!どうした!」

只事ではない様子にレイオウルが慌てて彼女の手首を握って引き剥がした。腫れた目でぼんやりと金色を見つめるフェリチタが唇を開く。

「たす、」

けて、と。

殆ど吐息のように漏れた囁きは、フェリチタの躊躇を映して震えていた。