恨めしげなフェリチタの視線の先、剣を振るうレイオウルの動きには無駄がない。きっと何度も何度も、同じ型を繰り返してきたのだろう。

煩わしそうに前髪を掻き上げる、その動きに飛び散る汗が光を反射してきらりと輝く。戦という物とは本来程遠い暮らしをしているはずの王族の気品と相まって、この場にいる誰よりも彼女の目を惹き付ける。

(私が望まない命令はしないんじゃなかったのかなあ)

もしかしたらフェリチタが彼と過ごす事を悪くないと思っているのがばれているのかもしれないけれど……

そう考えるともっと居心地が悪くなって、フェリチタは顔を赤らめながら爪先を穴が開くほど見つめた。

「──つまり、お前は『奇跡』とかいう力が使えて、そのために『聖女』と呼ばれて崇められていたと。でもそのお前の『奇跡』は自分の力ではコントロールできない、と?」

フェリチタがはっと我に返って肯定する。会話の途中だったのに完全に意識が飛んでいた。

「そう。コントロールできないというか、そんな力使った事無いっていうのが正確だけど。森人の戦士達にはまるで力を持っているように装ってたから、きっと皆は私の力を信じてた。
……でも、私には詳しい事はわからないの。全部お母様が教えてくれて、私に『聖女』という役目をくれたのもお母様だったから」

ふうん、と呟いたレイオウルが剣を振るいながら僅かに首をかしげる。

「ん、聖女は聖女として──『奇跡』を起こせる者として生まれてくるのか?そうでなければ本当に『奇跡』を起こしたことも無いのにその力を持っているなんてわからないだろう。
だとしたらなぜそんなことがわかる?神託を受ける聖女や神官という存在が森人にいるのか?」