「怖ければ僕の手を握ればいい。辛ければ僕と全部分け合えばいい。悲しければいつでも僕の胸で泣けばいい。無理に強い自分を装わなくていいんだ」
勝手にここに連れてきて。勝手に心を許させて。
もう心の中には貴方がいて、追い出すことなんてできない。
……どうしてくれるの。
「これは命令だ」
とても命令になんて聞こえない、優しく耳朶を叩く声。暖かい大きな手で頭を撫でられて、そのぎこちない動きにフェリチタは笑いを零して──零したつもりだった。
「──ふぇっ、」
代わりに口の端から漏れたのは情けないほど震えた泣き声で。声を抑えても、唇を噛んでも、涙は止まらなかった。
どうして。
きみは敵なのに。まだ出会って少ししか一緒に過ごしていないのに。きみがどんな人なのか、まだほんの少ししか知らないのに。
頭では幾つだって理屈を思いつくのに、そんなものは全部関係無くて。
どうしようもなく安心感を抱いてしまうのは……どうして?
レイオウルの腕の中にいる間は、自分は聖女でも、まして森人ですらなく、ただのフェリチタでいられるようで──
彼を敵だと言い張るのは、彼と出会った記憶を、彼に触れられた熱を、全て消しでもしなければもう不可能だと思った。


