「僕は怒ってるんだ」

レイオウルの囁きが耳朶を撫でてフェリチタは微かに身じろぎした。

フェリチタの細い指を、彼女の二回りほどもあるレイオウルの男らしい指がなぞる。1本1本、指先からゆっくりと滑って付け根まで、余すところなくしつこいと思うほどに丹念に触れられる度、違う何かが彼女の腰を震わせた。

手から力が抜ける。フェリチタの弛緩した指の間にレイオウルが自身の指を差し込みそっと絡める。

もう冷たくない。溶け合って、手の温度は2人とも同じだった。

「……何より自分に」

そのままぐっとフェリチタの体を引き寄せる。目が合った。琥珀色に煌めく、吸い込まれそうな魅惑的な瞳。戦場で見つめあった時よりも近い。心の奥まで見透かすようにじっと覗き込まれて、ああ、駄目だ、とフェリチタは思った。


今までまともに触れもしなかったくせに。

指がほんの少し当たっただけで、あんなに動揺して真っ赤になったくせに。

「フェリチタ、こんな目に遭わせてすまない」

いつもお前って言って、名前で呼んだこともなかったくせに。

「僕が嫌い?」

いつもなら、そうに決まってる、なんて憎まれ口を叩くところだったのに。

気づけばほとんど無意識に首を振っていた。途端、ぎゅうっと抱き締められる。頭の後ろと腰に回される手。フェリチタの頭をそっと胸に抱き、自分の仕立ての良い服に卵が付くのも気にしない。それどころか、レイオウルは自分の袖でフェリチタの顔を拭った。