冷静を装って。

自分の思いを伝えるために『聖女』を装わなければ何も言えない、弱い本当の自分から目を逸らして。

(結局私は、皆の前で嘘をついていた時と何も変わっていない……)

リーメイとその姉はぽかんとした表情をしている。自分達が何を言われたのか、全くわかっていないのだろう。いや、はなから捕虜の言うことなど聞く気は無いか。

この状況で何を言おうとしたのか。暫くしてリーメイが鬼のような形相で口を開いた後、そのまま固まった。


「──全く、お前は凛々しくて困る」


背後からした声。それはよく通る、フェリチタをどうしてか、どうしようもなく安心させる声。

「……でん、か?」

すぐ斜め後ろに、暖かい気配。フェリチタの呼びかけに頷く気配。

「シャノット伯爵にはよく言っておかねばならないようだな、娘達の教育について。いや、あるいは子がこれとは伯爵本人に問題があるのかもしれぬか。相応の処分を考えねばなるまい」

絶対零度の声にさっと2人の顔が青ざめた。伯爵の娘なら、身分も高いだろう。そしてこれが問題になり父の地位が下がれば、当然自分たちの地位も下がる。

忙しなく目を泳がせたが何もできるはずもなく、彼女達は優雅とは程遠い仕草でお辞儀をすると競うように去っていった。