フェリチタは、随分簡単にそんなことを言うけれど、と。

「僕も……」

「なぁに?」

後を追うように想いを紡ぎかけた少年の口は、少女の瞳の空色の煌めきに動きを止める。

「いや……」

こちらをじっと見つめるフェリチタの瞳は、自分を見つめているようでそうではないとわかっているから。

少年はいつだって息を詰めてしまうのだ。

歳に似合わない大人びた視線で、自分を見透かして、もっと、もっとずっと向こうを──見据えるこの少女の藍玉の瞳。

それは、当然のことではあるけれど。だって、フェリチタは、『特別』な……


「……なんでもないよ」

だから、結局少年は、今日も1つ後悔を重ねた。

僕たちがもう少しだけ大きくなったら、きっと……いつか言える時が来るはずだから、といつものように言い訳を胸の中で呟いて。


「……ふーん、そっか……」

フェリチタは俯いた。不満そうにこっそり頬を膨らましながら小さな柔らかい手のひらでぷつっと手折ったのは、1輪の白詰草。

少年の葛藤に薄らと気が付きながらも、わからないふりをして短く返事を返すだけ。


だって、急ぐ必要は無い。

幼い自分たちにはまだまだ、たっぷりと時間は残されているのだから。

そう、2人、一緒に過ごす時間は、それはもう沢山──

あるはず、だった。



……でも。

幸せな時間は、長くは続かない。