「わぁ……」

フェリチタは感嘆の声を漏らした。牛、豚、鶏。見渡す限りに様々な動物がいる。これほどに多くの数をまとめて見たのは初めてだった。

(これは、近いうちに畑にも連れていってもらわないと)

と、本来の目的を忘れていたフェリチタがハッと振り返る。ルウリエが居ない。慌てて飼育棟から出たがやはり姿が見当たらない。

「る、ルウ?ルウリエ!何処に行ったの?」

周りの人々のせいで危機意識が薄くなっていたが、ここは人間の城で、全く知らない場所なのだ。フェリチタは急に不安になった。

来た道は何となく覚えているので戻れはするが、彼女と合流せずに帰っていいものかもわからない。

その時、足音が背後から近づいてきた。

「ルウ……?」

いや、音の感じが違う。知り合いの中で言えばレイオウルに近い、ゆったりとした身分の高い者の歩き方。そして二人分だ。

フェリチタは腰に手をやる。ルウリエがドレスにサーベルはご法度だと言って……サーベルは部屋の中だった。サーベルの柄に触れようとするのは、不安を感じた時の癖だった。

現れたのは2人の女性。髪をきらびやかに飾り豪奢なドレスに身を包んだ姿は、貴族か、もしくはそれに相応する身分だろうと予想された。

「あら……?お姉様、『何か』いますわ」

「本当ねぇ、何故こんな所に?」

フェリチタは顔を歪めた彼女らの視線に頭に手をやった。ルウリエに絶対に自分の髪だけは触らせない。その理由はこの偽物の耳だったのに、感覚が無いからすっかり忘れていた。

「噂には聞いていましたが、下賎な騎士団員たちの戯言だと思っておりましたのに」

「まさか本当に存在していたとは思いもしませんでしたわねぇ……」

そうだ、これが普通の反応だ。とフェリチタは冷静に思った。危機感が圧倒的に欠落していた。やはり外に出るべきではなかった。