(自分があれだけ偉そうに出ないとか言っておいて、突然出たいというのも恥ずかしかったし……)

この立場で惨めなプライドだ。フェリチタは極力意地を張るのは辞めよう、と自分を戒めた。

「そうですね……確かあの時は飼育棟にいたと……思います」

「飼育棟?」

「ええ、鶏や牛、豚などを育てています。王城で食べる物は全て城内で作っているのですよ。場所は違いますが、野菜などもそうですね」

「へえ、凄い……」

フェリチタは純粋に驚いた。それだけの土地が城の中にあるという事だ。そしてそれだけの飼料を準備するお金があるという事。野菜が育つ豊かな土壌があるという事。

森の中では家畜は貴重だったし、鬱蒼とした森の中の陽があまり届かない土壌では野菜は育つ物と育たない物があったので、その年に食べられるものは毎年違っていた。

今思えば外界と多分に隔離されていたフェリチタは、森の外どころか塔の外の事情すらそれほど知らなかったが、森人達は自分より詳しく知っていただろう。彼らが人間たちを羨ましいと、妬ましいと、煩わしいと思うのは必然的な気持ちなのかもしれなかった。

(私はもしかしなくても、よく知りもしないまま『聖女』をしていた?)

「そこの角を曲がった所が飼育棟ですよ」

そんな事を考えていたので、その言葉にフェリチタはルウリエを置いてぱっと早足で飛び出した。足元のたっぷりとしたフリルや高いヒールを煩わしく思いながら、すぐに見えた大きな建物に入る。