レイオウルは当惑したように僅かに眉を寄せた。
「ああ、勿論覚えてる。そして僕はレイオウルと名乗ったはずだけど」
彼の暢気な返答に、とうとうフェリチタはふらつきながらも勢いよく立ち上がる。
「あなたはあの時、私を捕虜にすると言いましたよね?それなのに何なんですか、この待遇は!」
「体裁上そういうことになっているけど、僕はお前をそんな風に扱う気は無いよ」
(じゃあ何のために私をここまで連れてきたの……!)
ヴェールを斬り裂いたレイオウルの姿を思い出す。近づく剣先。長い髪をはためかせる風圧。フェリチタはまだこの青年に憤りを抱いているというのに、彼といったらどうだ。まるで先の戦いを忘れ去っているかのような。
姿勢を低くして腰に手をやったフェリチタは、サーベルが無いことに気がついた。
「邪魔かと思って取ってしまったけど、大切な物だったのか、すまなかった。
それより……悪かった。やむを得なかったとはいえ痛かったよね。一応医者に診せたけど何かあったら言ってほしい」
レイオウルは足元に手をやるとあっさりとフェリチタにサーベルを返す。目をぱちくりとさせて呆気に取られていると、彼は自分の首を指差しながら困ったような顔をした。フェリチタを斬りたくないと言った、あの時のような。
(何考えてるの?捕虜に武器なんて返して。それに、身体の心配まで……?)