何故彼が謝らなければならないのだろう、とフェリチタは首を傾げた。

「いえ、大丈夫です。それより耳が赤いですが……もしかして反動でどこかにぶつけられましたか?もしそうでしたら……」

申し訳ありません、と言う前にレイオウルが手で遮った。

「いや、違う、僕が紳士らしくない行動を……とにかく気にしないでほしい」

「……?はぁ、そうですか」

フェリチタは一層首を傾げる。自分の白髪がシーツの上を滑る音を聞きながら目を眇めた。

(何だか、よくわからない人だな。ただの捕虜の私を、こんな上質な寝台に寝かせているし。え、捕虜……だよね?)

不審がられない程度に部屋を見渡してみる。クローゼット、タンス、姿鏡、ドレッサー、腰掛け、そして寝台。ドアも幾つかあるから洗面台などもあるのだろう。外の様子が見渡せるほど大きな窓もあるのに、見る限り格子すら無い。

物は少ないが生活するのには困らない。むしろ余るほどだ。客室か何かかと思うほどの設備。

ふと寝台の横の棚に視線をやると、バスケットに入った果物と水差しとグラスが置いてあった。

フェリチタは思いっきり眉を潜めた。

(はぁ?意味わかんない。本当何のつもり?)

自分は捕虜だ。そのはずなのに過剰にもてなされて、フェリチタは頭に血が上った。馬鹿にしているのか。

「目が覚めた時、腹が減っていてはいけないと思って。そうだ、喉は乾いてない?」

彼女の視線に気づいたのか、レイオウルが水差しを手に取る。そのままグラスに注ごうとするので、フェリチタは少し声を張った。

「改めて名乗らせていただきますが、私はフェリチタ=シャトヤンシーと申します。“森人”達を率いる、『聖女』と呼ばれる立場の者でした」