「フェリチタの瞳は……とても綺麗だね」

「そうかなぁ?」

鼻のぶつかりそうな程近い距離から自分の瞳をじっと見つめる少年に、フェリチタはにっこりと笑った。

歳は八つか九つか。子どもらしく丸みを帯びた柔らかそうな頬は可愛らしい桜色に染まり、伏せられた睫毛はそこに長く影を落としている。

陽の光を照り返す青い瞳は幼いながらに利発そうな輝きを宿しており、白の長い髪はふたりが座り込んでいる芝生に無造作に投げ出されているのに、全く艶を失わない。

大人が見れば、きっと神様に愛されているのね、と彼女に微笑むだろう。あと数年もすれば息を呑むような美人になるだろうと容易に想像された。


フェリチタの柔らかく細まる蒼(あお)の輝きに自身の瞳も笑みの形に細めながら、少年はそっと囁く。

「うん、藍玉(アクアマリン)よりもずっと。まるで……空を閉じ込めたみたいだ」

「空、かぁ……」

フェリチタは少年の言葉に天を仰ぐ。その拍子にフェリチタの白銀の髪と少年の黄金の髪がぶつかって絡まって、でもすぐにほどけた。

宝石の瞳がもう自分を見つめていないことに少年が残念そうに身じろぎしたのには気が付くはずもなく、フェリチタはじっと宙を見つめる。

その空色の瞳に、遠く広く広がる青空が映って溶けた。

少年がぼうっとその様子を眺めていると、フェリチタはその全く化粧っけはないのに不思議と魅力的につやめく桃色の唇を微かに開いて、呟いた。

「うーん、でもね、私が好きなのは、これじゃないの」

「……え?」

少年はフェリチタの言葉に声をひっくり返した。

この少女はいつも空ばかりを見つめているから、てっきりこの蒼穹が好きなのかと、そう思っていたのだ。