「ふむ、気づかれていないと思ったのだが、流石に騎士団長様といったところか……」

「……お前が指揮官か?」

「こちらは一方的に知っているが貴様とこうして見(まみ)えるのは初めてであったか。私の名はルーベン=ルクリオ。森人の中では最強の戦士と呼ばれている!」

(ルクリオ、だって?)

聞き覚えのある名にレイオウルは眉を潜める。しかし今考える余裕は無いと、ランスを腰だめに構えたルーベンから目を離さず己も簡素に名乗りを上げた。

「僕はレイオウル=オ=ルミナント=クリンベリル。第二王子、そして騎士団長だ」

互いの間に流れる沈黙。

酷く短く、それでいて永遠にも感じられるようなピンと張り詰めた静寂を、先に斬り裂いたのはルーベンの穂先であった。

森人の膂力でもって繰り出される突きは恐ろしく速く、それでいて扱う者のポテンシャル故にリーチが酷く長い。

かなり余裕を持ってその攻撃をいなすつもりだったレイオウルは、急激に迫り来る攻撃を目を見開いて受け止めた。刃先が変な音を立てて軋むのを感じて歯噛みする。恐らく相手はまだ全く本気ではない。ほんの小手調べのつもりだろう。

どうにか拮抗した状態のままで、ルーベンがにやりと嫌らしく唇をひん曲げた。

「人間の力など所詮この程度!あの時も愚息などに任せなければ、聖女様を奪われることもなかったのだ……当時の愚かな私の判断の責任は、今ここで取るぞ!」

「愚息……?」

反射的に呟いてからハッとする。よく見れば、はっきりとした精悍な顔立ちが似ているかもしれない。