心做しか嬉しそうな顔をした金の馬は、強く地を蹴り、見る間に遠ざかっていった。
丘に登り、ぐるりと見渡す。煤けた戦場では、あの目立つ金の青年も流石に見つかりそうにない。
(駄目だなあ、レイの事を考えると、すぐ気持ちが揺らぎそうになっちゃう……)
だからもう、会いには行けない。
思考を霧散させるために大きく頭を振る。
「……私……本当なんであの薬渡しちゃったんだろう。居なくなる人をずっと想っとくのは駄目だよ。あの時のレイの気持ちがわかった。好きな人には、好きだからこそ、立ち止まって欲しくないし振り返って欲しくない。私は……あの人の明るい未来への足枷になりたくない」
厳格で近づき難いようでいて、本当は弱虫で強がりで誰よりも優しい彼。今までは見た目で敬遠されていたようだが、彼の本質を皆が知ればすぐに良い縁談もあるだろう。
服の内側に忍ばせた金の懐中電灯に指を触れる。温かさがまだ残っているような気がするのは、自分の手が冷え切っているからだろうか。
「私はきみにとってただの敵の捕虜で、何故か一緒に過ごした少しの間に心の距離が近づいてしまっただけ。……それだけの方が、きっと早く忘れられるのに、なあ……っ」


