聞きたくない、というようにフェリチタは強引に手を振り払った。はっと我に返って後悔したような表情を浮かべたが、そのまま顔を伏せる。

「ごめんなさい。ドルステさん、捕虜の私にも最初から優しくしてくれてありがとうございました。凄く嬉しかったです。レイの事、お願いします……さようなら」

手綱を引くと、金馬はフェリチタに応えてぐんと速度を上げた。後ろから追いかけて来る声が聞こえたが、追いつけないだろう。

「きみ、アエラスっていうんだ……良い名前だね」

そっとその背に寄り添いながらぽそりと呟くと、アエラスは誇らしげに嘶いた。フェリチタはのろのろと体を起こすと手綱を握り直した。滲んだ目尻を強引に拭う。

可能な限り人目を避けながら、時に戦いながら、素早く戦場を縦断する。両軍が展開されている荒れ野原の、狭間辺りの場所に小高い丘があるのをフェリチタは知っていた。その下までアエラスを走らせると、馬具を外して自由にしてやった。

アエラスの首に紐を括りつけ、首と紐の間に花を数輪差し込む。無意識に祈るように手を握り合わせた。

「気が付かなければそれでいい。私がこの花を選んだ理由を知らなければそれでいい……」

とん、とアエラスの背に軽く触れる。

「きみのご主人様の所へ行って。レイはきっときみがいないと本領発揮できないんじゃないかな。相棒だもん。でしょ?」