鈍い音が部屋の空気を揺らし始めた。柱時計が素知らぬ顔をして淡々と刻を奏でる。

ふたりとも息を止めてそれに聞き入っていた。何事も無く音が12回撞かれ終わった所で、レイオウルがふっと相好を崩した。

「──フェリチタ、お誕生日おめでとう」

「……そっか、今日……私の誕生日、なんだよね」

にっこりと笑うレイオウルからフェリチタはそっと視線を外した。

「……」

何も感じない。誕生日を迎えても何も変わらない。それはつまり、本当に何の力も無い自分を取り合って戦争が起こるということで。

(結局、真の力なんてものも存在しないんだ……やっぱり自分は奇跡の聖女なんかじゃない……この戦いは、凄く、無意味なものなのに……)

力なんて無いと喚けば戦争は起こらないだろうか?そう考えて首を振る。今更誰も自分の言葉に耳を傾けてくれそうにはないし、信じてもらえないに決まっている。

廻り始めた運命はもう止まらない。

……それでも止めたいと言うのなら、きっと相応の対価が要る。運命は人の手には触れられないものだから。

俯くフェリチタの手にレイオウルが何か固い丸い物を握らせた。

「これ、プレゼントとして貰ってくれる?」

そろりと手を開く。手のひらに収まっていたのは繊細なレリーフが施された金の懐中時計。レイオウルがいつも時間を確認するのに使っていたのを思い出す。

「本当にいいの?」

「僕が持ってたもので申し訳ないんだけど」

「ううん!そのほうが嬉しい。本当に……ありがとう」

気が変わられてはたまったものではないとフェリチタは握った手を胸に抱き締める。