五年ものあいだ、毎日のように身につけていた変装用の黒縁めがね。これを外す日がやってきた。

 うつくしい顔を隠す前髪、これをすっきり整えるために美容院へゆく。それから街へとくり出して、華やかでかわいい洋服も買いに向かう。

 今日、碧羽は生まれ変わる。さなぎから蝶へと、地味な少女からうつくしい腐女子へと――


「あ~~~もう! せっかくイイ雰囲気だったのに、今のでなにもかも台無しッ! ほんと、つかえないよね、このひと」

「……ねえ、凜。だれと喋ってるの?」

「ん? ん~つかえないひと?……ううん、なんでもない。それよかさ、いい? 覚悟はできたかな。もう行ける?」

「うん、だいじょうぶ。髪切りたかったの。だからうれしい。それに……このめがね」

「ああ、やっぱりそれないと不安? 五年もかけてたんだもんね。ねがねってさ、かけてるひとにとっては身体の一部って言うしさ、やっぱ碧羽も愛着がわいて――」

「全然わかないよ。これ、もうしなくていいんだって思ったら、すっごくうれしくて。清々するって考えてたの」

「あ……そう」

 黒縁の瓶底めがねに愛着のわく女子高生など、どこにいるというのだ。勘ちがいも甚だしい凜少年は、今日も今日とてゴーイングマイウェイを謳歌しているのであった。