その後、じっくりとBLコミック本を吟味し選別した一冊を、碧羽は凜を従えてレジカウンターへと会計しに向かう。

 ふたりから少し離れた距離を、『不満』と顔に書いた漸が不承不承と後に続く。

 会計を終え書店を後にした三人は、当てもなく繁華街へと足を進める。今日は書店にて、新作のBLコミック本入手という予定以外、これといって目的はない。

 けれどもせっかく繁華街まで出てきたのだ、このまま帰るのは少々勿体ない気もする。

 それにまた碧羽とともに過ごせるのだ、今日はその始まりの一歩でもある。

 このままデートとしゃれ込まなくては男が廃ると、俄然やる気を滾らせる凜と漸であった。

「気に入った本が買えてよかったね。碧羽♪」

「うん♪ ありがとう、凜。帰って読むのがたのしみ。この漫画家さんのお話、好きなんだ♪」

「そっか。じゃあ僕もその漫画家さんのお話、好きにならなきゃね」

 凛は透かさず碧羽のご機嫌に便乗する。すべからくヨイショの上手い腹黒だ。

「おまえ……それ読むのかよ。根性あるな」

 腐にまみれた本を読む気でいる凛に、漸は羨望の眼差しを向け敬服する。

「ふふ。好きな女の子の、好きなものだからね。理解してあげるのが男でしょ?」

「ぐッ……おまえには負けねえ」

 胡散臭いアルカイック・スマイルを湛えた凜の笑顔に、渋面にアオスジを湛えた漸が宣戦布告する。

 だが悲しいことに、ふたりの恋の矛先である碧羽は、BLコミック本に描かれたシュールな装丁に見惚れ、凜のさり気ない告白など聴いてはいなかった。

「あ~ん♪ 陸く~ん♪」