しかし女子たちの噂とは時として残酷なもので、有栖川に対する中傷――人格や人間性自体を否定するような噂が蔓延(まんえん)し、それが元で凛との仲も御破算になったという。
ただ現在も噂を吹聴した者はおろか、噂自体の真偽も定かではない。
有栖川自身も凛との交際解消に対し、有無をはぐらかしているそうなので、真相がどうなのかは誰も知る由がなかった。
碧羽は知りうる限りの、有栖川情報をhacchi嬢にはなして聞かせた。
彼女は碧羽からの情報を受け、ロビーで見た有栖川を想起するように、腕を組んで思案した。そして、
「ふ~ん、まあ見た目はそこそこ悪くはなかったけど、私と碧羽ちゃんに比べたら『足許』にも及ばない程度だったわ」
hacchi嬢は『足許』という単語に力づよいアクセントをつけ、有栖川を盛大に扱き下ろした。
そのまま優に十秒ほど大笑していた彼女であったが、急にシリアスになったかと思うと、碧羽に向き直り思い出したかのように語りはじめた。
「そうそう、有栖川と一緒にいた子、『蓮水 カンナ』って言ったかな、私が有栖川を追い返したあと、その子が教えてくれたの」
蓮見 カンナ(はすみ)とは、碧羽がヘアサロンで施術を受けている時、凛に告白するためにヘアサロンまでつけて来た女の子だ。

