季節は移りゆき、師は走り寒風が肌を刺す十二月。

 慌ただしい年の瀬も、陰暦を顧みれば雪月などと雅な異称で表現され、ともすれば白銀の情景を想像する者も少なくはないだろう。

 しかしながら、『atelier-TSUBAKI(アトリエ ツバキ)』のスタッフたちは、そんな情緒あふれる雅な余裕など微塵と持ち合わせてはいなかった。

 本来の美しいすがたへと戻った碧羽が、安藤のゴリ押しスカウトにて専属モデルになると決心してから、はや一か月が過ぎた。

 父親からの承諾も得て、無事にコミットメントを完了した碧羽は、朝早くから凛と漸とともにテストシュート(テスト撮影)のために、社内スタジオに詰めていた。

 この撮影は『atelier-TSUBAKI』が来春より始動させる、ティーンズ・ブランドのイメージモデルとして抜擢された、碧羽と双子の宣伝用スチール撮影なのだ。

 一テイクを経て、hacchi嬢もイメージモデルとして参加することが決まっている。現在彼女は母親が代表を務める、マザーエージェンシーとの年間契約終了待ちで、目下待機中とのこと。

「碧羽、喉は渇いてないかい? このスタジオ暑いよね。碧羽にこんな辛い目遭わせるなんて、いったいどういう了見なんだろ」