「ちゃんと真っ直ぐに向き合わないと」


嘘をついているのは徹だけではない。
私だってそう。


昨日、静かに怒るように電話を切った徹。

このままじゃいけないのは分かっているけど……。


心ここにあらずの状態でその日一日を過ごした。


なんとか授業を終えて校門を出る。


「文子ちゃん」


その声に私はやっと我に帰った。


塀にもたれて立っていた身体をこちらへと向ける。

フジナミケントがこちらへと近付いて来た。


「どうして……」

「だから、そんなに簡単に諦めるつもりないんだって。それを分かってもらおうと思ってね」


新歓の時期でもない女子大の前で男が立って待っていたら、確実に目立つ。
私はこの男と話をする精神的余裕なんてなくて、その横をすり抜けようとした。
でも、腕を掴まれて行く手を止められる。


「お願い。俺の話一度だけでいいからちゃんと聞いて」


大学の前でこんなことをしていたら、変に思われる。
私は焦りのあまり顔を伏せた。
人の視線が耐えられない。


「文子……」


その時、この腕を掴む男とは別の人の声が耳に入る。
その声が誰のものか一瞬にして分かる。

ただ、どうしてその声が聞こえて来るのか分からないだけだ。

恐る恐る顔を上げた。


「あれ……、あの男。昨日の?」


私の腕を掴んだまま目の前のフジナミケントが呟く。


私はただ立ち竦んだ。