講義棟を出て、静かな構内を歩く。
そして目に付いたベンチに座った。
大事な授業だったのに。
何やってんだろ。
私、いつからこんなに情けなくなったのだろう。
ベンチにもたれて空を見上げた。
少しずつ空が高くなる。
澄み渡った青空が私の視線を受け止める。
徹と私の間に、気付かない間に距離が出来てたのかな。
この想いに嘘はない。
信じてる……。その気持ちにも嘘はないはずなのに。
怖いほどに遠く感じる。
「文子」
突然名前を呼ばれて私は視線を空からその声の方に向けた。
「理香……。授業は? 必修だし、サボったら後が面倒だよ」
理香が私の隣に座る。
「文子だって。これまで授業サボったことなんてないのに。突然出て行っちゃうから心配になってさ。まあ、たまにはいいでしょ。これまで私たち真面目だったし?」
そう言って理香は悪戯っぽく微笑んだ。
「理香、ごめん」
「それより、どうしたの? 由紀に何かされた? 男がどうのって言ってたけど」
私は昨日のいきさつを理香に話した。
「……何それ。災難だったね。それにしても、あんなに彼一筋で真面目過ぎるほど真面目に生きてたのに、それでも男を引き寄せるって、文子って魔性だ」
「ちょっと、やめてよ」
私は冗談ぽく笑う理香を睨みつけた。
「でも、そういうところが逆に惹かれるのかな。そういうところに目を付けたんだから、あながち由紀が言ってたのも間違いじゃないのかもね。その人、本当に真面目に近付いて来たんじゃない? まあ、だからってどうなるものでもないけどね。文子は徹君一筋だもんね」
その言葉に素直に頷けない。
「ん? 何? 他にも何か気になることあるの?」