「ねえ、文子! いいところにいた」


学食でのランチを終え、次の授業がある講義棟へ行こうとしていると顔見知りの女の子から声を掛けられた。


「由紀ちゃん、どうしたの? そんなに走って」


敢えて『顔見知り』と言ったのは、ただ同じクラスだというだけで特別親しいわけではないからだ。
由紀ちゃんは、さっきので言う「男の子との出会いに命を燃やしている」グループの子だ。
だから、会えば話すと言う程度。


「今日の夜、暇?」

「今日? まあ、特に予定はないけど」

「ほんと? じゃあ、カラオケ行かない?」


突然だな。
由紀ちゃんからは、入学当初はよく合コンだなんだと声を掛けられたこともあったけど、全部断っていたら次第に誘われなくなっていた。
だから、こんなの相当久しぶりのこと。


「なに? 急になんで?」

「今日たまたまカラオケ一部屋予約取れてね。そのカラオケって部屋単位でいくらっていう値段設定なんだよね。だから人数多い方がお得だし。たまにはクラスのみんなで親睦深めようよ」


それにしても急な話。
たまたまって、なに?
なんとなく腑に落ちない。


「暇なら、いいでしょ? 行こう?」


気付くと腕を掴まれていた。
間近に見る由紀ちゃんの女子力は半端ない。お人形みたいだ。
そう言えば、最近彼と別れたなんて話を聞いたけど、この子ならまたすぐ次の相手が見つかるんだろうな。


「まあ、うん。分かった。じゃあ、行くよ。クラスのみんなも行くんでしょ?」


クラスの親睦会なら女子だけだろうし、後ろめたいこともないよね。

私はそう思って、由紀ちゃんの誘いにのることにした。