大学に入学して三か月が経った。

大学の授業はたくさんの教養科目が詰め込まれていて、平日はほとんどその授業と合間で時間を見つけてやっているバイトで埋まる。

だから、文子と会えるのは週末だけ。

俺にとって、かけがえのない、楽しみな一日だ。

それなのに――。

渉……。


『二人だけで会いたい』


喉まで出かかった言葉。
まあ、当然言えるわけないけど。

あんなに楽しそうに提案されたらな。

それに、そんなこと言って器量の小さい男だと思われたら困る。

弟とたまには遊んでやるのも兄の勤め。


まあ、それもそれで楽しいかと思うことにする。



ということで、週末の昼前。

渉と共に、待ち合わせ場所のターミナル駅へと向かっている。


「おまえさ、もし、恥ずかしいとか思ってたなら断ったって良かったんだぞ」


電車での移動中、少し背の伸びた弟に声を掛けた。


「え?」

「だって、五年生にもなれば親とどっか行ってるの見られるの恥ずかしいとか思う頃だろ?」


俺も、何をこんな恨み節みたいなことを言ってるんだか。

確かに、「もしかしたら渉は断るかも?」って思いが過ったことは事実だ。
でも、渉は一つ返事で行くと言った。


「兄ちゃんたちは、親じゃないだろ。別に恥ずかしくなんてないよ」


俺から顔を背けて流れる景色を眺めていた。