一年前の、後期試験の合格発表の日。
松本が突然俺のところに乗り込んで来た日から、松本はいつでも俺の隣にいてくれた。

それは物理的と言うより、精神的に、だ。


この一年、しがない浪人生だった俺は、金もなければ遊びに行く時間もなかった。
それこそ、ただ勉強することしか許されない一年。

それでも、文句も言わずいつも俺を励ましてくれた。


ほとんどどこにも連れて行ってはいないし、ゆっくり一日を過ごしたこともあまりない。
週に一度、俺の気分転換にと、昼下がりの公園で松本の作った弁当を食べて過ごしたり、俺の部屋で一緒に勉強したり。
そんなことばかりだった。

そして、あいつから出される大学の話題と言えば、勉強のことだけだ。

大学に入った松本にとっては、本来なら一番自由で楽しんでいいはずの一年だったのに、俺に気を遣っていたのかそれ以外の話題になることはほとんどなかった。

サークルだってあるだろうし、いろんな遊びの誘いもあるだろう。
でも、あまりそういう話題はしてこない。


そんな中で、俺は密かに安心していたことがあった。

それは、松本が女子大だってこと。

そんなことに安心している自分が情けないと思うけど、それほどまでに松本は日に日に綺麗になっていた。
たまに見せる大人びた表情に、何度胸が高鳴ったか分からない。

もし大学に男が山ほどいたとしたらと思うと、ゾッとする。

どう考えたって、時間も金も余裕もある大学生の方が一緒にいて楽しいに決まっている。


でも、俺はあまりに無知だった――。