「やあ、文子さん。なんだか久しぶりだな。すっかり美人さんになって。なあ徹」


またそんなことを豪快に笑いながら言う父さんに、俺は苦笑する。
そんなことを聞かれて『そうだろ? 美人だろ?』なんてことを俺の性格からして言えるわけもないこと知っているくせに。


「ご無沙汰してます」


松本は少し頬を赤らめて、また頭を下げていた。


「松本さん、いらっしゃい。あ、それから兄ちゃん、合格おめでとう」


ソファから立ち上がり崇が俺たちに向かって言う。
それが一番まともな反応だ。


「さあ、お腹すいたでしょ、みんなご飯にしましょ。今日はお祝いメニューよ」


台所の方から母さんの声がする。
もうすっかり普通の生活を送れるようになって、やせ細っていた身体も随分もとに戻っていた。


「私も手伝います」


なんて言いながら、気付くと母さんと松本二人で台所に並んでいた。

こんな光景も、皆が言うように本当に久しぶりだ。

年が明けてから今日まで、松本はこの家に来ていない。

それどころか、二人ですらほとんど会っていなかった。

それは松本が俺に気を遣って、受験に専念させるためだ。


この一年、松本がどれだけ俺を支えていてくれたか。
どれだけ我慢させていたか。

無事合格出来た今、俺は松本に感謝してもしきれない。


母さんと松本が笑い合う姿を見ていると、この一年のことが走馬灯のように蘇って来る――。