「私、駅まで送ってく――」


必死で絞り出した声は、なんとか明るさを滲ませることが出来た。
気を抜くと歪んでしまいそうな表情に歯を食いしばっていると、河野の顔が私の方へと近付いて来た。


「――いいよ。暗くなったら危ないし」


私に顔を近付けてそう囁いたと思ったら、そのまま私の唇に口付けを落とした。
それは、前に河野がくれたキスと同じ優しいキス。

その感触が私の心を暴れさせる。

そのまま涙腺までも刺激する。


「じゃあ、気を付けて……」


その扉が閉まるまで。
そう言い聞かせて笑顔を貼り付ける。


バタンと閉じられたドア。