「今回も、本当はおまえに恩返しがしたかったのに、逆にこんなにしてもらっちゃったな」


優しい表情のまま私を見つめる。
その声も、低いけどとても優しい。


「恩返しなんていらない。一緒にいてくれればそれで……」


勝手に声まで掠れだす。
ドクドクと胸が激しく動く。

この部屋に二人しかいない。
他に誰もいないから、私たちが喋らなければ静けさが襲ってくる。


私の河野を好きだという気持ちがさっきからとっくに溢れ出している。
それがどうしても私の態度に、言葉に、表情に、漏れ出してしまう。


「……うん。これからもよろしくな」


緊張で気付けば握りしめていた自分の手は、汗ばんでいた。
私の頭を、河野が優しくポンポンと叩く。

河野は優しい。
その優しさが嬉しい。
嬉しいのに、切ない。

私、ダメ過ぎる。
女の私がこんなにも耐えられなくなってるなんて、恥ずかしくて河野に気付かれたくない。


「本当に、今日はありがとう。それと、この一年、いろいろ我慢もさせたと思う。それなのにいつも励ましてくれてありがとな」


私は声にならなくて必死で頭を横に振る。
頭に置かれた河野の手は、決して下にはおりて来ない。
おりて来ないことより、それを期待して待っている自分が嫌。

本当に、今日の私はどうかしてる。