「このパン、自分で作ったの?」
「そう。美味しい? ちょうどいい時間に焼きあがるようにしたんだけど」
私が河野の顔を覗き込むようにその反応を見守る。
「本当に美味しいよ。パン屋のより美味いかも」
そんな言葉一つにも心が躍る。
河野のために作った料理だから、やっぱり喜んでもらえると嬉しい。
「ちょっと多く作り過ぎたかな。無理に全部食べなくてもいいからね」
私が少し心配になってそう言うと、すぐに言葉が帰って来た。
「何言ってんだ。これくらい平気で食べられるよ」
そう言って、本当に美味しそうに食べてくれた。
一つ一つの料理にどこがどういう風に美味しいか説明してくれて。
そういう律義なところが河野らしい。
これが本当の幸せだよな……。
なんてついついしみじみ思っちゃう。
そして、河野は本当に全部食べてくれた。
「大丈夫? 苦しくない?」
「全然。久しぶりの文子の料理、感動してた」
いつもより優しい言葉に、胸がドクンと鳴る。
それに、やっぱり今日は表情が優しい気がする。
いつもより無表情度が低いのではないか。
河野も合格してホッとしてるのかもしれない。
昼食を食べ終えて食器を片付け始めると、河野が隣に立った。
「片づけくらいは手伝うよ」
そこはその言葉に甘えることにした。
二人で並んで食器の片づけなんていう新婚さんぽくて美味しいシチュエーションに、一人ニマニマする。
至近距離に背の高い河野がいて、「これ、お願いね」なんて言ってみたりして。
自分のあまりに飛躍した妄想に自分で自分をたしなめた。
いかんいかん。
今日の私、一人で浮かれすぎてる。
二人だけの時間を過ごすのなんて、三か月ぶりくらいで。
どうしたって浮かれてしまう。



