すべての料理を作り終えて、テーブルにセット出来たところでインターホンが鳴った。約束の時間、ちょうど12時。

私の胸も高鳴る。

エプロンをしたまま玄関へと走る。
白いボタンダウンのシャツにカーキのモッズコートを着た河野が姿を現した。


「いらっしゃい。道迷わなかった?」

「……ま、まあ、俺は一度通った道は忘れないから」


私を見て一瞬無言になったと思ったら、さらりとそんなことを言った。


「これ、お土産。料理得意のおまえに食い物を買って来るのもどうかと思ったんだけど、他に考え付かなくて」


そう言って、河野が有名な菓子店の紙袋を手渡して来た。


「ありがとう。後でお茶の時に一緒に食べようか。じゃあ、どうぞどうぞ」


少しだけよそよそしくなる態度にも気付かないふりをして、河野をリビングダイニングへと案内した。

河野がこの家に来るのは、実は、あの高校時代に家で倒れた時以来のことなのだ。
河野と会うのはいつも、外か河野の家かのどちらかだった。


「おお、凄いな……」


ダイニングテーブルの傍に駆け寄ると、河野が感嘆の声を上げた。
その表情を盗み見ると、本当に感心しているように見えたのでとりあえずホッとする。


「座って。早速食べようよ」

「ああ」


河野の向かいに私も座った。
そして、お酒って訳にもいかないから辛口のジンジャーエールを用意して雰囲気を出す。

そして、二人でおめでとうの乾杯をした。


「合格おめでとう」

「ありがとう」


自然と私も笑顔になる。